山登ってみよう【縦走東海自然歩道・椿大神社~鈴鹿峠~沓掛・前編】

 高山納めも無事終了し、東海自然熱が高まりを見せる中、体育の日を含む三連休は、相変わらず天気がさえなかった。いちおう日曜日から上向く予報ではあったけれど、朝一番まで雨が残った感じだったので、椿大神社~関までのビッグファイトは月曜日まで持ち越すことになった。仕事の前日に長距離歩行と言うのはあまり上手くない気もするけれど、まだ鹿島槍で7時間歩いた時の余韻が残っていたし、来週は佐渡に行くので、この機会を逃すと決行が再来週までずれ込む。それよりは、一刻も早く挑みたい気持ちが強かった。

 椿大神社より先、東海自然歩道は中断ポイントに恵まれない。鉄道駅としては、コースにある程度近接したところに柘植駅が存在するものの、三重県内の駅ながら草津線の始発駅に当たり、約50kmの彼方に位置している。バスに関しては、道すがらにバス停の類がないわけではないが、ほとんどすべてが自主運行バスのそれで、東海自然歩道ウォークの頼みとするに足りない。必然的に、現実的な中断ポイントは亀山市にあるJR関駅となる。それでも、亀山市関町沓掛で東海自然歩道のコースを離脱した後、4㎞~5㎞歩かなければ駅にはたどり着けず、自然歩道本線の歩行距離と合わせると、1日の歩行距離としてはゆうに30㎞を超える。歩行時間も6時間ではきくまい。7時間は見る必要がある。

 そんな遠い道のりでありながら、スタート地点である椿大神社にたどり着ける時間は、9時少し過ぎに固定される。神社までは三重交通の普通の路線バスを使えるので、アクセスは容易なのだけれど、これの一番早い便が8時半前に近鉄四日市駅を出るものとなっているためだ。これに間に合わせることを考える場合、名古屋を出るのはわりと遅い時間帯でも良いのだが、ゴール時間の遅れとは裏腹になる。10月中旬の9時過ぎスタートで7時間たっぷり歩くと、ゴール間近は黄昏と言うより夕闇が近い。途中で時間を取られた場合、コース終盤は宵闇の中を歩く展開もあり得る。幸い、ラストの10㎞近くは国道1号やそれに寄り添う旧東海道沿いを歩くので、路頭に迷うことはないはずだ。それでも一応、お守りとしてヘッドランプをバックパックに忍ばせえおく。北岳用に買いはしたが、その後活躍の場がないので、使用機会を作りたいと言う事情もあった。

 コースを概括する。歩行距離30㎞オーバーのロングコースの中で、文字通りの山場となるものは中盤以降に二回現れる。三重・滋賀の県境となっている安楽越(あぐらごえ)と鈴鹿峠だ。コースは安楽越で一時的に滋賀県内に入るも、鈴鹿峠を西から東に跨ぐ形で、もう一度三重県に戻ってくる。登り始めから最高所までの標高差は、それぞれおよそ400mと150m。鈴鹿山脈は三重県側が急峻で、滋賀県側がなだらかだと言われる。その鞍部である鈴鹿峠も片峠となっているため、そのまま一気に土山辺りまで抜ければ後が楽そうな気もするのだが、コース取りはそうなってはいない。その他、棚田で知られる亀山市坂本集落に向かって高低差150mほどのダラダラ長い坂道を登る区間もある。地道を歩く区間は限定的で、一つの特徴として、舗装された山道区間の長さが挙げられるだろうか。

画像 路線バスの終点となっている椿大神社バス停でバスを降り、準備を始める。神社入口には自動販売機が何基か設置されているので、水分の入手はこれで事足りる。その気になれば気の利いた食堂もあるほどなので、東海自然歩道沿線では珍しく、補給に関しては恵まれた場所なのだけれど、唯一残念なのは、トイレが境内のわりと奥まったところに位置しているところくらいか。神社が入道ヶ岳の山裾に位置していることもあり、用を足すために多少なりと坂を登らなければならない感じがある。

 5か月ほど前に中断地点とした指導標の前から、9:17スタート。この先通過するいくつかの地点までの標準所要時間が表示されているが、一つのチェックポイントとしたいのは石水渓。3時間と出ている。歩行距離約15㎞から計算し、私の見立てでも正午に通過する腹積もりでいる。何ならそこで昼食休憩。さらにその先の安楽越には、13時到着の予定だ。その先の鈴鹿峠は予定を立てにくいが、15時前にたどり着くことはできるだろうか。道のりは遠い。考え出すと気持ちが萎えてくるので、今はまず目の前の道を辿ることに集中する。

画像 ガイド本によると、神社からすぐの鍋川は、涸れ川の底を渡ることになっている。湯の山温泉に至る朝明川以降、飛び石で川を渡る、涸れ川を渡る等、増水時は迂回が必要とされている個所が何か所かあり、その都度渡河に難渋してきたので、この涸れ川渡りを警戒していたのだが、この日の鍋川は問題なく涸れ川だった。全く水がない。それでも、歩行計画に与える影響を思うと、やっぱり橋くらいは欲しいなあと思う。今後、東海自然歩道用に橋が架けられることはたぶんないのだろうが。ふと、古の東海道の大井川を思い出す。

画像 川を渡った直後、道は植林の森に入る。緩やかなアップダウンがあるが、山道と言うほどではない。10分と歩かず森を抜けると、茶畑が広がっていた。茶畑も、藤原を行き過ぎたあたりから付き合いが続いており、これも鈴鹿山麓を象徴する風景の一つなのかもしれない。茶畑を突っ切ると、再び林間へ進むことになるが、この林も長くは続かない。めまぐるしく風景が変わり、9:39、桃林寺に到着。源平合戦で知られる安徳天皇の頃に始まる由緒ある古刹だということだが、道はまだ始まったばかり。山門の前から境内の様子だけ伺って、そのまま通過。お寺からわずかのところに小岸大神社もあるが、これも通過。

画像 三度里山の中を抜けると、再び茶畑が広がっていた。その向こうには、石灰石の採掘場となっている山。これも鈴鹿山脈らしいと言えばらしい。鈴鹿山脈は、御在所岳周辺を除けば石灰岩質の山である。一般に、石灰岩質の山には山ヒルが出るという。前回の歩行では雲母高原周辺でヒルの襲撃にあっているため、あまり良い印象のない石灰岩の山だが、今日は、今のところ何も起きていない。長い林がなかったので当然かもしれない。まあ、このコースに限っては、鬱蒼とした林の中の地道よりは舗装道を行きたいような気持さえある。実際茶畑からしばしの間は、石灰採掘に従事するダンプカーが行きかうような舗装道路が続く。またしても林間へと導かれた後、林を抜けると一面にソーラーパネルの並べられた緩斜面の片隅に出た。東海自然感は全くない。

 空が広い。秋の訪れをしみじみ感じる。真っ青な秋晴れの空が目に染みる。思えば今年の秋は、曇天に祟られ続け、まともに秋の空を見たことが無い気がする。

画像 この直後に指導標を見失い、一瞬迷子になりかけたが、たどり着いた細い田舎道然とした舗装道路が、どうやら次に目指す坂本の集落に通じているらしい。最悪東海自然歩道を外していたとしても、どこかで道は交わるだろうと開き直って歩いて行くと、幸いすぐに指導標を見つけることができた。相変わらず、次に表示される地点は石水渓と、現存しているのかどうか怪しい「バス停石水渓口」の名前のみだ。ともに5㎞以上先の地点なので、1時間は歩きとおすことになる。ある程度変化がないと気が持たなくなりそうだ。道すがらで変わったものを見つけるしかない。余り流行っているとは思えない墓地・峰ヶ城メモリアルパーク、鶏足山野登寺。野登寺への参道と思しき道は、やがて仙ヶ岳に通じているという。仙ヶ岳は、かの鈴鹿セブンマウンテンには数えられていないが、この地域ではメジャーなハイキング対象なのだろうか。

画像 東海自然歩道のコースとしては特に見るべきもののないこのダラダラ坂は、20分ほど登り続けると下りに転じる。10分も下ると坂本集落の外れに出た。11:11、坂本棚田いっぷく停と書かれた掘立小屋にたどり着いた。坂本の棚田は、日本の棚田百選に選ばれているのだそうだ。この坂本棚田いっぷく停は、この地区では比較的高い場所に位置しているので、棚田を見物しながら休憩するのにちょうど良いかと思って立ち寄ってみるも、椅子の設えられたこの小屋は、棚田を背にして建っている。当然、肝心の棚田を見下ろすことができない。それに、坂本の棚田は傾斜が緩いので、上から見下ろしても今ひとつパンチに欠ける。中部地方には石川県に白米の千枚田があり、同じ三重県内に丸山の千枚田があり、東海自然歩道沿いでも愛知県に四谷の千枚田がある。これらライバルに伍して行くにはなかなか厳しい坂本の棚田なのだった。

 さて、坂本から石水渓を目指すには、棚田の西端からさらに西側へ抜ける必要があったようだ。それらしき道が防獣ゲートで隔てられていたので、何となくこれを巻いて行った所、最終的には新名神の下を通り過ぎ、池山地区の方まで下る羽目になってしまった。このタイムロスは痛いペナルティになるだろうかと思われたが、県道を辿って石水渓方向を目指すと、思ったほどには時間を取られずに済んだ。ちなみに、その過程で亀山市コミュニティバスの仙ヶ岳登山口と言うバス停を見つけた。停車本数は上り下り一日一本ずつと言う代物だが、運行時間はやっぱりハイキング向きである。曲がりなりにも東海自然歩道歩行の一助となりそうなバス停としては、この日の歩行区間では唯一のものだった。鉄道駅としては亀山駅に接続するようだ。

つづく



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